RPE(北野幸伯さんのメルマガ)研究室

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米朝会談に対する私(奥山)の見解へのご批判について

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┃THE STANDARD JOURNAL~アメリカ通信~┃ http://www.realist.jp
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├ 2018年6月18日 米朝会談に対する私(奥山)の見解へのご批判について
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※今日は(6月18日)は【【20時】】から、
 株式会社ベンチャー広報代表:野澤直人(@naohito_nozawa)さんと生放送です。
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おくやまです。

最近番組で米朝首脳会談が実現した最大の要因として「北朝鮮核武装したから」という指摘をしたわけですが、それに対して、

核武装がスゴイという分析は単純すぎる」というものや
アメリカには露中に対抗するという奥深い戦略がある」
「むしろワナとして北朝鮮を国際社会に組み込んだのだ」
「むしろ勝ったのはアメリカだ」

という批判がありました。

それに対していくつか反論してみたいと思います。

まず「単純すぎる」という主張に対して私が言いたいのは、その通りかもしれないが、
それでも全体的な問題の核心は核兵器にあり、この最大の問題から目をそらせてはいけないという点です。

日本人としては目をそむけたいのかもしれませんが、核兵器というのは本当にすさまじい効力を持っておりまして、現在の国際社会で「大国」と呼ばれる国はもれなく核武装をしております。

そしてパキスタンのような核武装を達成した国はアメリカにつぶされずに、達成できずに解除されてしまったリビアはトップであるカダフィが殺されております。

つまり核武装は、少なくとも北朝鮮金正恩委員長にとっては「体制保証」のための切り札であり、自分を国際社会において米国とも対等に話をするのを可能にしてくれたもの、ということになります。

もちろんそれが本当かどうかは完全に断言できませんが、少なくとも状況的に金正恩自身がそう考えていることは明らかでしょう。

次に「勝ったのはむしろアメリカだ」という批判ですが、私はそれらは「希望的観測」としては非常に正しいと思いますし、むしろ今回のシンガポールの会談ではそのような
アメリカの勝利」という結果であったら良かったと個人的には思っています。

ところが残念なことに、それらはあくまでも「希望的観測」でしかないのです。

今回のトランプ大統領の「敗北」や「核武装」について、私は以下の2点が論拠として
挙げられると考えております。

【小国であっても核武装すると別物】

まず一点目は、トランプ大統領が現地時間で6月15日の朝に言った、記者との受け答えです。

この時のトランプ大統領ホワイトハウスの庭を歩きながら、何人かの記者たちとカジュアルな記者会見という形で質疑応答を行ったわけですが、この時の受け答えで、以下のようなものがありました。
===

「大統領、あなたは金正恩氏と北朝鮮に拘束されていた(米国人学生の)オットー・ウォーンビアー氏を死に追いやった状況について熱心に語ったとおっしゃってましたね。
それと同時に、金正恩氏の人権侵害の経歴を擁護しております。なぜそんなことができるんですか?」

「なぜかって?それは私が(米国にいる)あなたとあなたの家族が核兵器で破壊されることを望んでいないからです」

===

おどろくべきことに、これは文字起こしされて、ホワイトハウスの公式HP(https://goo.gl/Hv15pR)に掲載されています。

なぜ驚くべきなのかというと、世界最強のアメリカのトランプ大統領が、どこまで本気かどうかはさておき、

北朝鮮核兵器が怖いから会談した」と公式に認めてしまったという事実です。

つまり彼は「小国でも核兵器を持てば慎重に扱わなければやばい」ということを認めてしまったのであり、
おそらく北朝鮮だけでなく、その他の核武装を望む国々にも「核武装の素晴らしさ」
というものをあらためて認識させてしまったということです。

【トランプに深い思慮はない】

二点目は、トランプがあまり考えなしに政策を決定しているという事実です。

これについてはニューヨーク・タイムズ紙の記事(https://goo.gl/s5RZsM)で報告されているホワイトハウスの最新の状況からその様子をうかがい知ることができます。

すでに『炎と怒り』(https://goo.gl/GWzjoR)という暴露本でも有名ですが、トランプ政権はカオス状態にあります。

しかもさらに新しい状況を報告したその記事では、「ホワイトハウス内のムードは茫然自失、大統領が直感だけで行動しようとますます自信を深めていることに対する諦めの状態」

と書かれているのです。

このような状況で、トランプ大統領に「アメリカには露中に対抗するという奥深い戦略がある」、「むしろワナとして北朝鮮を国際社会に組み込んだのだ」と言い切れるかというと、私はかなり難しいと考えております。もちろん「これはリベラルで反トランプのNYタイムズ紙だからこういう見方をするんだ」という反論もできるでしょう。

ただし突発的な米韓軍事演習の中止の決定による混乱や冒頭に紹介した「核兵器で殺されなくない」という発言など、どう考えても彼がそこまでものごとを考えて決定しているとは思えず、この記事で報告されている政権内のカオスは事実と考える方が自然です。

経済制裁が効いて金正恩が会談に乗ってきたからトランプの勝利」というのも、1つの議論としてはあるでしょうが、本当にそのせいで会談が実現したのかどうかは、北朝鮮側の証拠がないので、実際のところはわかりません。

経済制裁が効いたから会談せざるをえなかった」という議論も一理ありますが、実際に中国側が軍事演習をやめるように金正恩に頼んでいた、という報道(https://goo.gl/nRZ9z9
があったことからわかるように、「北朝鮮を中国から引き離し米国側に取り込んだ」という議論はやはり無理でしょう。

ということで、私は現時点では今回の米朝会談はやはりアメリカの「北朝鮮核武装国として認めてしまった失敗」であり、あらためて核武装の効力を国際的に喧伝してしまった、トランプ大統領の思いつき的な「失策」だと考えております。

トランプ大統領はたしかに素晴らしい不動産取引のできる人なのでしょう。
それでも国際政治における「ディール」ができるかどうかは、やはり別の能力だと考えたほうがよさそうです。

( おくやま )

 

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